読書日記【004】ものすごく強力で魅力的な何か
大雨。傘を打ちつける雨音、耳からイヤホンを外す。家族へのお土産にからあげ専門店で鶏の唐揚げを買う。雷が落ちる音がした。
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元モデルの社会学者による、超富裕層向けVIPクラブのパーティーシーンの様子を詳細に描いた民族誌。一晩で巨額の富が浪費される「モデルとボトル」社会を、関係者の同行取材により詳らかにし、分析している。
登場する主な関係者は3種類。VIPクラブで豪遊するグローバルエリート層、クラブの「華」となる女性たち、その女性たちをクラブに集めて報酬を得るプロモーター。上記引用はあるグローバルエリートの発言。彼は過剰なシャンパン競争のような浪費行為が愚かな振舞いであることを自覚している。しかし、やめられない。
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本書を手にしたのは下世話な好奇心。見知らぬ異文化の習俗を覗き見るような。実際、本書では現代のVIPたちの狂騒を、アメリカインディアン社会にみられる儀礼的な贈答競争〈ポトラッチ〉と比較するくだりもある。
しかし界隈の人々の声を知るにつれ、疼くような哀しみが胸にしみてくる。祇園精舎の鐘の声。決して手に入らないものに焦がれ、足掻き、華々しく散る。フィッツジェラルドの小説のよう。私は、私たちを狂わせるものすごく強力で魅力的な何か、つまり「力」のメカニズムが知りたい。その犠牲になる前に。
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中古本をパラパラめくっていたら、ステーキ専門店の割引チケットがページの合間に挟んであった。前の持ち主のものだろう。ときどきこういうことがある。よく挟まっているのは、レシート、新聞記事の切り抜き、美術展のチケットの半券。書きかけの便箋が挟まっていたこともある。誰に送るつもりだったのか……送られなかった手紙。
そのステーキ専門店を興味本位で調べたら、2年前に閉店していた。
2022/04/29(金)