読書日記【006】若者にない力

雨ときどき大雨。電車の窓から海が見える。波は妙に穏やかで、沖合のサーファーたちが棒立ちする姿が点々と過ぎてゆく。

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あることを何百万回も繰り返すと、確かに新鮮味は失われるだろうが、一方で味わいは増す。味わいを増した過去、そして経験。過去に一人、二人を愛しているだけに、若者にない力がある。それは、さっさと切り上げる力、好きなことをする力、他人のことなど気にしない力、どこへ行くにも大きな期待を持たずにいる力だ(新聞をテーブルに置いて、立ち上がった)。

ウルフ(著),土屋政雄(訳)『ダロウェイ夫人』光文社より

物事への期待値をコントロールする術を学べば、感情の起伏は想定の範囲内に収斂し、安定した精神生活を送ることができる。生きる上でのしんどさはたしかに軽減されるかもしれない。

しかし精神の安定は喜怒哀楽の貧困でもあり、その究極には何に対しても感動しない無感覚の状態が待ち構えているように思う。”若者にはない力”を身につけた大人たちは、無感覚による無力感に苛まれたりしないのだろうか?

『ダロウェイ夫人』の二人の主人公は、無感覚に飲み込まれてしまう自分を極度に怖れているようにみえる。しかしその怖れこそが、何気ない一瞬のうちに世界の美しさを発見する彼らの感受性を鋭くしているようにも思う。

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nanoblockのルリコンゴウインコを作り上げる。翼の関節を曲げられたりと、毎度のことながらアニマルシリーズのクオリティの高さに感無量。

nanoblockを組み立てている間は無心になれるので、座禅やヨガのような精神的効果がある(と勝手に考えている)。手先が不器用な私でも30分程度で完成するので、息抜きにちょうどよい。

家電量販店で売られているnanoblockを初めて私に教えてくれた大学時代の友人は、心が荒れるたびに好きな動物のnanoblockを作る(または一度完成したブロックをバラして作り直す)と言っていた。

2022/5/1(日)