読書日記【009】あるのはしるしだけ

踏み切りを渡ると、雨がぽつりと降り出し、木々はざわめき、冷たい風が通り抜けた。連休が終わる。

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人生はいつもわたしの手からすべりおちていった。わたしがみつけるのはその足跡、つまらない抜け殻だけ。わたしがその座標をさだめるやいなや、人生はすでに、ちがう場所に移動している。あるのはしるしだけ。それは、「ここに来たよ」と公園の木にきざまれた、メッセージに似ている。わたしが書くと、人生は不完全な物語に変わった。夢の話、ぼんやりとしたプロット、さかさまの景色、垂直に走る地平線。そこから全体をとらえることは、たぶんすごく難しい。

オルガ トカルチュク (著), 小椋 彩 (翻訳)『逃亡派』白水社,p.14

Google MapのタイムラインでGW期間中のロケーション履歴を確認すると、近所周辺を徒歩でぐるぐる回ってばかりの連休だったようだ。

興味本位で昨年のGW期間中の履歴も確認する。当時は家族でよくサイクリングしていたため行動範囲はやや広いものの、やはり近所のお決まりのエリアをぐるぐる回ってばかりの連休だった。

自分の足跡をデータで可視化してみて改めて思うのは、同じエリアをぐるぐる回りがちということだ。可視化しなくてもなんとなく予想はしていたが。

Google Mapが無い時代、過去の行動を振り返るには、よりささやかな足跡やつまらない抜け殻を集める他なかった。撮影した写真、お店のレシート、電車やバスの整理券、美術館のチケット……。こないだ部屋の掃除をしていたら、三年前に日比谷公園を散歩しているときに拾ったムクロジの実が出てきて笑った。まだとってある。

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明後日から家族が入院するので、明日はできるかぎり美味しいものを食べさせてあげたい。

2022/05/08(日)