読書日記【020】ドア・ストップのように
暮合いの海辺で、小さな双子がぴょんぴょん飛び跳ねているのを見る。波が押し寄せてくるたびに飛び上がり、キャッキャと歓声を上げる。それを飽きずにくり返している。日が落ちるまで。
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「これまでの人生で、母親を早くに亡くした以上に悲しいことはなかったよ」と教えてくれた方がいた。当時の私は誰かを亡くした経験もないし、それに匹敵するような悲しい経験の覚えもなかったので、その話は他人事のように聞き流した。
「ドア・ストップのように」という表現が素敵だなと思う。ドア・ストップを取り付けたドアを(そうとは知らずに)押したときの、ズズッと音をたててこちらに抵抗してくるあの手応え。
悲しみを経験したことがなくても、「ドア・ストップ」の手応えに覚えがあれば、その悲しみがどれだけ胸をふさぎ、次の扉を開こうとする気持ちを妨げてきたか、イメージがしやすい。
このくだりを読み直し、母親の死を語ってくれた方のことをふと思い出した。もう何年も会ってないし、この先会うこともないだろう。その人が今、悲しみが効力をなくすような幸福に出会えていたら良いなと思う。
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帰り道、真っ暗な裏道を歩いていると、どこからともなく懐かしい匂いが漂ってくる。ホッケの塩焼きだ。間違いない。
2022/6/16(木)