読書日記【021】罠に身体を預けたまま
通りに男がたたずんでいる。旅館の庭先をただ凝視している。くもり空の下でいびつなほど鮮やかなレモンイエローのジャージ。すれ違いざま彼の見つめる先を一瞥すると、庭木に生るコケモモの実だった。
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この「罠に身体を預けたまま、その位置や形状や手触りをじっくり味わうのだった」という言い回しに痺れる。
「罠に掛かる」という常套句で終わらせず、罠に掛かったあとの行動まで想像をふくらませ、その描写によって少年の性質をより深く伝える。作家のもう一歩踏み込んだ想像力によって、ありふれた言い回しが印象深い表現に生まれ変わる。
このような、常套句の世界観を踏襲しながら比喩を積み重ねてゆく技術にとても惹かれる。次の事例もそうかと。
「馬車馬のように働く」という常套句を発展させ、昔流儀で働けなくなった時代の変化やそれを嘆く心情まで言い表している。
もっと他にないかな……
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目の前でスズメとモンシロチョウが宙を翔びながら追いかけっこしてる……と思ったら、スズメが突然、くちばしでモンシロチョウをついばんだ。
2022/06/21(火)