読書日記【022】勝利の栄冠

二人の男女が裸足で浅瀬に立っている。手を繋いで、海の向こうを見つめている。夕暮れの海風が吹き抜けて、二人の白い髪がなびく。囁きあう声はこちらには届かない。

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 もはや征服すべき国がなくなったアレクサンダー大王が号泣したことは誰でも知っている──あるいは(今までかなり頻繁に引き合いに出されてきたので)知っていて当然、と言うべきだろうか。彼女なりに世界征服を果たしたレディー・デッドロックは、そのような湿っぽい気分ではなく、氷のように冷たい気分になった。
 疲れ果てた沈着、くたびれた平穏、興味も満足も覚えない、消耗しきった静謐──それが彼女の勝利の栄冠だ。
 彼女はまことにもって上品な人間であり、仮に明日天国に召されたとしても、何ら動じることなく天に昇るにちがいない。

ディケンズ著/佐々木徹訳『荒涼館1』岩波書店より

アレクサンダー大王のように世界征服を成し遂げたことも、レディー・デッドロックのようにパリの社交界の頂点を極めたこともない。勝利の栄冠を手にした人間が目標を見失って虚無感を覚えることは想像できる。

目標を立てること。目標を達成するために努力すること。この二つの重要性は、幼少期から学校教育などの場で散々強調されてきたように思う。しかし、目標を作り続けること──ある目標を達成したら、次の目標を探しにいくこと──は?

生活にはりあいがでるような目標。達成した未来の自分に会いに行きたくなるような、そんな目標。そうしたものを探し続けることの難しさを年々感じる。

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昨日と全く同じ道で、昨日と同じようにスズメがモンシロチョウをついばんでいた、との報告を家族から受ける。

2022/06/22(水)