読書日記【008】危険な緊張
庭園を散歩する。紫色のツツジの花が咲きそろう。ベンチに腰掛けて振り向くと、すっきりとした青空。
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ナチスの精神的拷問を乗り切るため、チェスに没頭するB博士。チェスに入れこむあまり「自分自身を相手にチェス」をやりはじめ、やがて現実と妄想の区別がつかなくなってしまう。孤独から彼を救ったチェスが、やがて彼を狂気に陥れる。
ツヴァイクの「チェス奇譚」(別訳では「チェスの話」)が心に特別な傷跡を残すのは、──負けてほしくない者同士が最後に対決する、映画『クライング・フィスト』のような胸が熱くなるストーリー展開の魅力もあるが──、チェスに没頭するB博士に、読書に耽る自分の姿が少し重なるからだ。
書物の世界に没頭する。それは現実逃避でもある。読書にかまけていて、現実から取り残されてしまわないか。「自分自身を相手にチェス」してるだけなんじゃないかと。そんな恐怖がずっとある。だから読書という行為を手放しで褒める気にはならない。
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近所の定食屋で昼ごはん。隣席の三人組の家族がかき揚げ丼を食べながら、口々に「おいしい!おいしい!」と声を出している。誰かがおいしそうに食事する姿は、見ているだけでほんわかする。
2022/05/05(水)