2022-05-01から1ヶ月間の記事一覧

読書日記【009】あるのはしるしだけ

踏み切りを渡ると、雨がぽつりと降り出し、木々はざわめき、冷たい風が通り抜けた。連休が終わる。 *** 人生はいつもわたしの手からすべりおちていった。わたしがみつけるのはその足跡、つまらない抜け殻だけ。わたしがその座標をさだめるやいなや、人生はす…

読書日記【008】危険な緊張

庭園を散歩する。紫色のツツジの花が咲きそろう。ベンチに腰掛けて振り向くと、すっきりとした青空。 *** チェントヴィッチは相手を静かに落ち着いて見やったが、その石のように硬い眼差しには、何か固められた拳のようなものがあった。突如として二人のプレ…

読書日記【007】なにを怖いと感じていたのか

午睡から目醒めると雨が止んでいる。外を散歩するが、植木の葉っぱ、ポリバケツの蓋、車両のボンネットを濡らす水滴を除けば、通り雨の痕跡は見つからない。夕空にはピンク、灰色、濃紺色の三色の雲。 *** 南北をとおして、江戸の人々がなにを怖いと感じてい…

読書日記【006】若者にない力

雨ときどき大雨。電車の窓から海が見える。波は妙に穏やかで、沖合のサーファーたちが棒立ちする姿が点々と過ぎてゆく。 *** あることを何百万回も繰り返すと、確かに新鮮味は失われるだろうが、一方で味わいは増す。味わいを増した過去、そして経験。過去に…

読書日記【005】散歩

快晴。午後の陽射しは私たちの体をじんわりと暖めるが、通りを吹き抜ける風は冷たい。日沈のあとはきっと寒くなるはず。閑古鳥だった定食屋が観光客で満員。 *** でも、ああ神さま、もう十分です、僕は出かけなくてはなりません、世界の中へ飛び込んでいかね…

読書日記【004】ものすごく強力で魅力的な何か

大雨。傘を打ちつける雨音、耳からイヤホンを外す。家族へのお土産にからあげ専門店で鶏の唐揚げを買う。雷が落ちる音がした。 *** 「こうして聞いてるとなんか悲しくなってくるな。あんた、まるで俺の精神科医みたいだよ。自分で話してる内容を聞くと、実際…

読書日記【003】愛の作法

庭の鉢植えが倒れる音で目が覚める。春の嵐。今日は曇り空。雲が流れるスピードが早くて嘘みたい。 *** もちろん、音楽マニアにとっては、飽きていくのは消費というよりむしろひとつの愛の作法であって(いつまでも「この一曲」だけを大切にして、ずーっとし…

読書日記【002】とてつもなく長い時間

雨ばかり降る。窓の外をぼんやり眺める。たちこめる霧の向こうから、二羽のマガモが歩いてくる。 *** 競馬場にいると時間が実際に削り取られていくのをひしひしと感じることができる。今日のこと、第二レースのために馬たちがゲートに向かっていた。スタート…