読書日記【018】人の温もりを浴びる術

昼に家族と散歩する。雲と雲の間の底に青空が見える。電線の上に一羽の鳥が止まる。あれは山鳩ではないかと噂する私たちの頭の上で、鳥がトゥートゥーットゥトゥーとやりはじめる。

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成人後の生活でキエルケゴールが客を招くことはほとんどなく、実に生涯を通じて友人といえる者はほぼ存在しなかった。しかし知人は多い。姪のひとりによれば、コペンハーゲンの街は彼の「応接間」であり、そこを歩き回ることはキエルケゴールの日々の大きな楽しみだったという。それは人と暮らすことのできない男が人々と交わる術であり、つかの間の出会いや、知人と交わす挨拶や、漏れ聞こえる会話から幽かに伝わる人の温もりを浴びる術だった。

レベッカ・ソルニット(著)『ウォークス 歩くことの精神史』

1対1の人間関係のありかたに唯一の正解がなければ、1対多の場合も同様のはずだ。誰が相手でも深い人間付き合いができないヒトはいるだろう。しかし付き合いが浅ければ悪く、深ければ良いのか本当に?

見知らぬ他人からのちょっとした挨拶や気配り(道や席を譲ってもらうなど)に人の温もりを感じたことは誰しもあるだろう。深い間柄に固執する必要なんてない。キエルケゴールのように、そのヒトにより適したやり方で人々と交わる術がきっとあるはずだ。

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「スパァン!」と音がしたので驚いて振り向くと、空き地でグローブを手にした大柄な二人の男がキャッチボールをしていた。その空き地には昔、豪奢で陰気な2階建ての洋館があった。

2022/06/08(水)